世の中で販売されている鞄のほとんどはミシンで縫製されています。
手縫い仕立ての鞄は、限られたハイブランドの一部の商品か、個人ブランドのどちらかではないでしょうか。
手縫いとミシン縫いの違いは色々ありますが、スピードを比較すると当然ながら圧倒的にミシンが早い。
縫う箇所にもよりますが、ミシン縫いなら5分とかからない箇所を、手縫いでは1、2時間かけて縫うこともあります。
だから必然的に手縫い鞄は安くできません。
それにも関わらず、手縫いが完全にはなくならないのはどうしてなのか。
よく言われるのが「手縫いの方がミシン縫いより丈夫」という話。
糸が切れてしまったときに、ミシン縫いより手縫いの方がほつれにくいのです。
でも私だったら、それだけの理由で高価な手縫い鞄をおすすめすることはできません。
そもそも、縫いだけが強くても鞄の設計や各パーツの処理が不十分であれば意味ないなぁと。
では、手縫いの魅力はどこにあるのか。
手縫いステッチは美しいのです。
ステッチの陰影が生み出す立体感と存在感は、鞄全体を強く印象づけます。
例えデザインに派手さや奇抜さがなくても、ひと目見た瞬間にはっとする、心に響く美しさがあります。
私は、手縫いで表現できる、ふっくらとした美しい立体感が好きなのです。
でもミシンを否定しているわけではありません。
ミシンと手縫いの特徴を踏まえた上で、自分が何を作りたいかを考え、使う方がどう感じるのかを想像して使い分けています。
私がつくりたいものは、日常で活躍する、さりげなく高級な鞄。
シンプルで上品な鞄をつくりたいと考えています。
女性向けの手縫い鞄でカジュアル路線でないものは本当に少ないです。
日常使いできるためには価格も重要なポイント。高級感を出すためには見えるステッチの手縫いは譲れませんが、インナーなどの見えない部分は積極的にミシンを活用します。
ところで、以前ある方に、「ミシンで綺麗に縫えるのに、わざわざ時間をかけて手縫いする理由がわからない」と言われたことがあります。
その時は今よりずっと未熟で手縫いの魅力を上手く説明することができなかったのですが、
今の私の目標は、今度同じことを問われたら、鞄を見せるだけで手縫いの魅力を理解してもらえるようになること。
存在感のある鞄をつくっていきたいです。